⚖️

承認済みAI環境利用に関する法的整理

本書の位置づけ

本書は、ハラスメント防止規程第14条第4項および公益通報規程第14条第4項に定める「承認済みAI環境」を利用する場合における当社の法的整理を、両規程に共通する論理構造として統合的に示した社内向け補足資料である。
両規程の Notion 公開版では、本法的整理の詳細部分を要約形式に短縮しているため、規程運用、相談窓口担当者・公益通報対応業務従事者の研修、将来の規程改定時の再検証および外部関係者への説明の便に供することを目的に、原典に近い形で再整理する。
本書は規程の一部ではない(規程ではない)が、規程13・14第14条第4項の解釈および運用方針を示す位置づけにある。

整理の全体構造

両規程のAI法的整理は、いずれも次の四層構造による。
  1. 主位的主張: 個情委が示す事実認定基準のもとで、本AI処理は第三者提供(および公益通報法上の範囲外共有)に該当せず、また「業務遂行に必要な範囲内」の処理に収まる
  1. 予備的主張: 主位的主張が採用されない場合の理論的補強
  1. 補強事由: 機関規模・実効性および人間限定原則
  1. 適用境界: 承認済みAI環境への限定
以下、各層を順に示す。

第1層 主位的主張

(1) 個情委FAQに整合するクラウド処理

個人情報保護委員会「クラウドサービスの利用に関する Q&A」(Q7-53)および同委員会の生成AIサービスに関する注意喚起の整理に従い、契約条項により提供事業者がサーバーに保存された個人データを取り扱わない旨が定められ、適切なアクセス制御が行われている場合、当該クラウド処理は第三者提供に該当しない。
両規程第14条第3項に定める承認済みAI環境の要件、特に同項(3)の契約担保(モデル学習その他の二次利用に供されないことの契約上の担保)および同項(2)のセキュリティ要件は、この事実認定基準を充足するように設計されている。
公益通報文脈における補足: 公益通報法上の「範囲外共有」概念は、個人情報保護法上の「第三者提供」概念と整合的に解釈すべきである。したがって、本主張は規程14においても同様に妥当する。

(2) 業務委託類型としての処理委託先

仮に提供事業者が一定の取扱いをする整理(保守・運用上のアクセスを伴う場合)を採用する場合は、第3項の要件を満たすAI環境は、個人情報保護法第27条第5項第1号に定める「業務委託」の構造に位置づけられ、委託元(当社)の指揮命令下にある。これは「範囲外」ではなく「業務遂行に必要な範囲内」である。

(1)と(2)の関係

主張(1)と(2)は、「提供事業者による取扱いの有無」の事実認定に応じて選択的に機能する。第3項の要件は、両整理のいずれかが必ず充足されるよう設計されている。

第2層 予備的主張

主位的主張がいずれも採用されない場合であっても、次の整理により、AI処理は厳生労働省指針および公益通報法・消費者庁指針上の規律に違反しない。

(3) 「第三者開示」「共有」の主体は人である

  • ハラスメント文脈(規程13): 厚生労働省告示「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚労省告示第5号)が求めるプライバシー保護は、自然人による情報の伝達・開示を対象とする。
  • 公益通報文脈(規程14): 公益通報者保護法第12条の守秘義務および消費者庁指針第4-2-(1)の「範囲外共有」禁止は、いずれも自然人による情報の伝達行為を対象とする。
AIサービスへのデータ入力は、自然人への情報伝達ではなく、業務遂行のためのデータ「処理」である。

(4) AIサービスは業務遂行ツールである

担当者・従事者がワードプロセッサ、表計算、社内チャットを利用することを当該事業者への「開示」「共有」とは呼ばないのと同様に、承認済みAI環境におけるデータ処理は、担当者・従事者の業務遂行のためのツール利用であり、別個の主体への情報伝達ではない。

第3層 補強事由

(5) 機関規模・実効性の確保

当社は10名規模・フルリモート・AIネイティブ運用を事業の中核に据える機関である。生データ投入を一律に禁止し都度の抽象化処理を必須とする運用は、形式的な指針・法令準拠を達成する一方で、次の弊害を招く。
  • 相談・通報処理の遅延
  • 調査の実効性低下
  • 相談者・通報者保護の実質的毀損
指針・法令の趣旨である「相談者・被相談者・関係者のプライバシー保護とハラスメント防止の実効性確保」(規程13)および「通報者保護と組織健全性の実質的確保」(規程14)は、当社の実情に即したAI前提の体制を構築することによって達成される。

(6) AI判断の人間限定原則による安全弁

両規程第14条第2項により、事案の認定、措置の決定、その他の人格権・身分関係・法令違反の有無に関する判断は、必ず人間(相談窓口担当者、公益通報対応業務従事者、調査主体、代表取締役その他の権限を有する役員)が行う。AI処理は事務支援(要約、文書整形、論点整理、報告書作成、傾向分析、翻訳等)に止まり、相談者・通報者保護に関する実質的判断には介入しない。

第4層 適用境界

(7) 承認済みAI環境への限定

本整理は、両規程第14条第3項に定める承認済みAI環境(同項(1)~(5)の全要件を充足する環境)に限り適用される。
生データを当該環境の外部または異なる契約条件下にあるAIサービスに移転することは、引き続き禁止する。

規程14条の2(暫定運用例外)への適用

両規程の第14条の2に定める不正防止計画における暫定運用例外(最高管理責任者の生データ直接関与)の運用に係る情報の取扱いについては、当該条第4項により、本書が示す承認済みAI環境の要件および運用最小限性・研修義務の規定が準用される。

再検証義務

両規程ともに、本AI法的整理に関する規定(第14条第3項~第5項)は、「新規的な法解釈を含むため、本規程の改定時における再検証および必要に応じた修正の対象とする」(規程13第14条第6項、規程14第14条第6項)と明示している。本書もあわせて、各規程改定時に再検証する。
特に、次の事項は再検証時の主要論点となる。
  • 個情委「クラウドサービスの利用に関する Q&A」および生成AIサービスに関する注意喚起の改訂状況
  • 厚生労働省指針および消費者庁指針の改訂状況
  • 改正公益通報者保護法(令和7年法律第62号、2026年12月1日施行)の運用に伴う指針改訂
  • AI関連法制度(AI推進法等)の制定・改訂
  • 当社の体制整備(独立窓口担当者の専任化、外部窓口の整備等)の進捗

関連規程・関連文書

  • 別紙: 承認済みAI環境一覧、AI取扱SOP(社内向け、別途整備)

作成日: 2026年5月12日
位置づけ: 規程13・14第14条第4項に関する社内向け補足解説
所管: 統括管理責任者(相談窓口担当者、公益通報対応業務従事者を兼務)
株式会社七夕研究所