内閣府知的財産戦略推進事務局のパブリックコメント「新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見募集」に意見を提出いたしました。

株式会社七夕研究所(神奈川県小田原市、以下「弊社」)は、内閣府知的財産戦略推進事務局のパブリックコメント新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見募集に提案を提出いたしました。
パブリックコメント本文
以下に提出したパブリックコメントの原稿本文を公開いたします。
「デジタル時代のコンテンツ戦略」について
我が国はクールジャパン戦略を通して「コンテンツによるソフトパワー」を国家存立の根幹の一つとすると理解している。そうであれば、コンテンツ産業の振興は単なる産業政策の枠を越え、ソフトパワーを軸とする文化安全保障の根幹となる。
現在、経済安全保障担当大臣とクールジャパン担当大臣が兼務されていることを存分に生かし、人間の安全保障、経済安全保障の観点から、クールジャパン戦略を根幹から立て直してもらいたい。
その前提で以下の通りコメントする。
コンテンツ産業の構造転換・競争力強化とクリエイター支援
コンテンツ産業の現場では、末端のクリエイターに配分されている資金が少なすぎる。
建築に例えれば地盤や土台をおろそかにして派手な建物を建てる構造になっており、いまの状況のままでは決して強靱なコンテンツ産業を生み続けることはできない。末端で働くクリエイターに対してきちんと資金が回る構造を、国が主導して法的に担保するべきである。
もちろんトップクリエイターへの支援は有効だが、トップクリエイター限定で支援することに意味はないと考える。クリエイティブな環境はトップから初心者、アマチュアクリエイターまでのエコシステムによって成立するものだ。社会が生み出したトップ層だけを支援しても持続的な制作環境は整わず、すなわち文化としてのコンテンツ産業は育たない。
諸外国では制作・プロデュース・マネジメントなどの人材への支援は限定的である。それは、これらの役職は市場と直接向き合うため、能力が市場によって適切に測定可能だからである。
国が支援するべきは、スター的な役割を担トップ層のクリエイティブを支える、職人的なクリエイターである。現場で汗をかいて文化の下支えをしている、彼らへの包括的な支援をこそ強化してほしい。
大規模なコンテンツ制作においてはクリエイティブ面の核となるクリエイターの力だけで作品を作り、また作品のトータルの質を底上げすることは事実上不可能なため、支援対象を選定する上で市場での存在感を指標とすべきではない。職人的なクリエイターの市場価値を、文化立国を目指す国は常に念頭に置いて政策を決めるべきである。
プラットフォーマーのあり方
プラットフォーマーに対する言及はあるものの、現状では国家としてのプラットフォームへの向き合い方があまりに古典派経済学、新自由主義的でありすぎる。プラットフォーマーが勝者総取りの構造を持つ以上、プラットフォーマー本国の政治・慣習・宗教思想が日本のコンテンツ産業に対して押しつけられる可能性はきわめて高く、それはコンテンツ分野におけるソフトパワーの安全保障に対するリスクである。
日本国として、(1) 独自のプラットフォーマーを育てる (2) 既存の諸外国のプラットフォーマーに対して法で圧力をかける の二つの方針を実行してもらいたい。
いくつかの先進国での事例を見る限り、現状の大規模プラットフォーマーは十分な経済規模のある先進国において正規に定められた法律がプラットフォーマーの方針とバッティングした場合、最終的にはプラットフォーマーとしてビジネス撤退せずに法律に従う方針があると考えられる。
メタバース・VTuberへの投資
メタバースについて0.7億円の内数として支出されているという記述があるが、予算額として甚だ心もとなく、諸外国に対して「日本はメタバース振興において熱心ではない」との誤ったメッセージを送りかねないことを懸念する。すぐの予算拠出は無理でも、日本国政府がメタバースを積極的に投資していく姿勢は、予算としてはっきり見せるべきである。
メタバースの有効活用方法は数えきれないほどあるが、文化安全保障の文脈では、日本語話者を増やすのにメタバースは極めて有効性が高い。すでにインドネシアや韓国などを中心に、日本語を話す外国人のコミュニティが独自に成立している。各国で軽く1000人を超えるだろう親日的な人たちと日本人との交流を、政府は積極的に支援するべきである。
メタバースの普及において最も重要なのは、「アバターへの自己投影」の楽しさを周知することであると考える。メタバース振興の先にはムーンショット計画1もあり、ムーンショット計画を社会的に受容してもらうためにもその第一のユースケースであるメタバースの楽しさを普及させることは重要。例えば、個人がメタバース空間を利用するためのアバター制作費に助成金をつける政策は検討できないか。メタバースをプレイするためのアバターの衣装などを出品しているクリエイターに対する間接支援にもなるため、まさにメタバースの振興につながるはずだ。
繰り返すが、日本の「kawaii」をはじめとしたソフトパワーが世界で強い位置を占めているうちに、メタバースにおけるプレゼンスを強化するべきである。
また、関連分野としてVTuberの活動へのサポートはどのようになされるのか、資料に一切の記述がないことは、政府資料として不適切であると考える。
埼玉県で、VTuberをバーチャル観光大使に起用して大成功した例もある。国が各自治体に、それぞれの地域に即したVTuberを起用または要請できる予算があってもよいはずである。
大手VTuber事務所として知られるANYCOLOR株式会社や株式会社カバーは、いずれも海外にコンテンツを自力で輸出する枠組みを作り、IPO後に市場で高い評価を得ている。ANYCOLORに至っては、一時的に国内テレビのキー局各社の時価総額を上回る評価を得た時期もあり、「稼げるクールジャパン」の筆頭であるはずだ。
著作権&海賊版対策
著作権法によれば、著作権法の目的は「文化の発展に寄与すること」である。簡素で一元的な権利処理の実現は著作物の利用推進に直結しており、権利の利用をより簡易に、かつ現実的にする枠組みを推進していただきたい。
ベルヌ条約の規定で許容される通り、著作権法における禁止権を報酬請求権に切り替えるべきだ。政府の新しいクールジャパン戦略で、可及的速やかな実現を望む。悪質なデッドコピー(海賊版)を除き、禁止権として支分権を実装することは著作物の利用促進には決して結びつかないはずだ。
Apple Musicの例をとれば分かる通り、法的にホワイトで使いやすいマーケットはデッドコピーの減少に直接的に資する。日本のサービスはUI/UX(ユーザインタフェース、ユーザ体験)のレベルがきわめて低いことが多い。CCCD(コピーコントロールCD)の例から分かるとおり、使いにくいサービスは決して海賊版を減らすことには役立たない。
使いやすいプラットフォームは、海賊版対策における何より重要なアクターである。
同人ソフトパワーと観光事業の提携強化
訪日外国人が「リアル・オーセンティックな日本」を求めているところ、コミケ(コミックマーケット)は間違いなくクールジャパンの担い手の一つである。類似するイベントも多数存在し、それぞれに存在感がある。それらのイベントに外国人が訪問しやすい枠組みを作る必要がある。
そのためには、訪日を検討する外国人向けに、一定のガイダンスがあることが望ましい。訪日外国人はコミケをはじめとする同人イベントの潜在需要であり、公的な観光案内とも連携する必要がある。
家庭用ゲームとプラットフォームの取り巻く課題
コンテンツをエコシステムごと輸出できれば、ソフトパワー戦略において理想的である。現状、家庭用ゲームの市場はそれを達成している。また、VTuberについても日本の二強事務所(ANYCOLOR/にじさんじ、カバー/ホロライブ)はおそらく達成できている。こういった動き方に他業種が学ぶ機会を政府が提供し、より多くのコンテンツを柔軟に海外展開することが重要である。
GAFAのような巨大企業群と比べて見過ごされがちだが、家庭用ゲームも、完全なプラットフォームビジネスであった。ゲームのプラットフォームにおいて日本が優位にあるという現在の立ち位置を死守することは国益であり、国として徹底的に支援するべきである。一方で、わが国が家庭用ゲームのビジネススキームの成功に依存しすぎた結果、今後のゲーム業界を支えるはずの「PC向けインディーズゲームのフィールド」で日本は圧倒的に劣後している。この分野でのプラットフォームを、steamをはじめとした海外勢に抑えられてしまったことは象徴的である。また、日本発で大きなセールスを生み出したインディーズゲームも少ない。
この現状を招いた一因は家庭用ゲームのプラットフォーマーではないだろうか。クリエイターを大事にせず、ビジネスと秘密保持を優先し、アタリショックを回避しようとした帰結であるように思える。このような失敗をくり返してはならず、わが国は、わが国のプラットフォーマーに対して、ある程度のリスクを取ることを強く奨励すべきである。当然、国はそれを後方支援するべきだ。
また、近年ではゲーム開発においてはUnityやUnreal Engineにあたるミドルウェアが重要なプラットフォームとなっており、これらの開発に対して日本社会がきちっとコミットし、支援していくことも重要である。オープンソース開発と政府の連携はかつてCOCOAアプリで重大な問題となったが、Unreal Engineの開発エコシステムに対して日本政府ががローカライズを中心に支援できればゲームプラットフォームに対して日本のプレゼンスを高めることが出来るだろう。
クールジャパン戦略の全体像についての議論
以下、今回のパブリックコメントの資料を含めたクールジャパン戦略の全体像についてコメントを述べる。
内閣府としての資料の方向性
内閣府は各省庁を串刺しすることが職務である。クールジャパン関連施策は多くの省庁にまたがって取り組まれている以上、今回の資料のように全分野向けの施策で単一の資料を作るだけではなく、省庁の枠を越えて市場ごとの資料も作るべきではないか。例えば実写映画市場向け、アニメ市場向け、などが可能と考える。
また、音楽コンテンツの海外展開について、グラフでは触れられていないように見える。政府の施策の情報は国民の財産であり、あまねく明示すべきである。
クールジャパン機構について
通称「クールジャパン機構」として多くの報道に載っている、正式名称「株式会社海外需要開拓支援機構」の名前が資料の中に全くないのは、どのような意図であっても好ましくないと考える。
本資料のタイトルで言及されている「知的財産推進計画2023」では123頁に以下の記載がある。
【株式会社海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)と関係府省・関係機関等との連携を深めるため、クールジャパン官民連携プラットフォーム等も活用しつつ、世界の視点や新たな取組等に関する情報の同機構への提供や、同機構の既投資案件について当該プラットフォームに参加した会員との情報共有や連携支援を行う。 (短期、中期)(内閣府、経済産業省)】
本資料が内閣府によるものだとしても、上記の通りクールジャパン機構との連携には内閣府も関わることが明示されているので、本資料においても言及は欠かせないと考える。
EBPMの観点から
施策のコストに対するアウトカムが明示されていないのは、重大な問題であると考える。
施策とコストとアウトプットを紐付けることの重要性は、公費・税金を使う以上否定できない。当然、アウトカムの紐付けもなされるべきである。なぜなら我々の税金が効率良く利用されているかは手続きの正当性によっては裏付けられず、アウトカム即ち結果によってのみ評価できるからである。
手続きの正当性を軽視するわけではないが、手続きよりもアウトカムのほうがはるかに重要である。クリエイターやビジネスは手続きから収入を得るわけではなく、アウトカムから収入を得ることを理解してほしい。