文化庁のパブリックコメント「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見募集の実施について」に意見を提出いたしました。

株式会社七夕研究所(神奈川県小田原市、以下「弊社」)は、文化庁のパブリックコメント「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見募集の実施について」に意見を提出いたしました。
パブリックコメント本文
以下に提出したパブリックコメントの原稿本文を公開いたします。
検討の前提として(2)AIと著作権の関係に関する従来の整理
人工知能(AI)と著作権法のバッティングにおいてはしばしば著作権法(以下「法」という)30条の4と法47条の4が問題となり、これらは著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)によって改正された条文である。文化庁のウェブサイトに改正に関する説明が掲載されている。 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/
資料には『適切な柔軟性を確保した規定を整備することが適当であると考えられ、』とあるが、「著作権法の一部を改正する法律 概要説明資料」では以下の記述がある。
○調査結果から、大半の企業や団体は高い法令順守意識と訴訟への抵抗感から、規定の柔軟性より明確性を重視していることが明らかとなった。
○我が国では法定損害賠償制度や訴訟費用の敗訴者負担制度もないため、訴訟しても費用倒れになることが多いという訴訟制度上の問題がある。このため、現在においても権利者は侵害対策に大きな負担を払っているとの報告があった。
○立法と司法の役割については、公益に関わる事項や政治的対立のある事項については、司法府ではなく、民主的正統性を有する立法府において権利者の利益との調整が行われることが適当である。
これらの調査を踏まえると、そもそも日本法(大陸法制)の国においては規定の柔軟性を前提とした考え方自体がワークしづらいと考える。一方で、生成AIをめぐる知的財産権の問題は明らかに公益・政治的な対立となっており、権利者の利益との調整を立法府・司法府ですらなく行政府が行うことは平成30年時点のまとめを踏まえても既に不適切である。
法1条には「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的」とあるが、これは著作権法が経済発展を阻害毀損して良いことを意味しない。法30条の4における柔軟な規定はAIをはじめとしたイノベーションにおいて海外から投資や起業を呼び込む良い呼び水となっており、法30条の4が法の目的と経済発展に沿う形で行政府ではなく立法府において利益調整されることを切に望む。
各論点について(1)学習・開発段階
ア 検討の前提(イ)議論の背景
対象資料に「法第30条の4の適用範囲等の、同条の解釈が具体的に問われる場面も増加していることから、現時点では、特に生成AIに関する同条の適用範囲等について、再整理を図ることが必要である」とある。上記の通り日本においては法令順守意識と訴訟への抵抗感から、柔軟な規定で適用範囲を定義することは社会の要請になじまないことが明らかである。
法30条の4は日本の法であり、立法府が定めた法である。柔軟な規定が国会の議決に伴い法として制定された以上、言葉の解釈は司法と立法によって検討されるべきである。
【 「非享受目的」に該当する場合について】 イ 「情報解析の用に供する場合」と享受目的が併存する場合について
AI学習の一連の作業では、データの品質を人間が目視で確認するプロセスがしばしば欠かせない。AIを電子計算機で作成する限り目視確認は法第四十七条の四に定義される利用形態であると考えられるが、著作物を享受する目的とは言えない事例が存在すると考えられる。
一方で、学習を行う際には過学習を事前に回避することは難しく、学習したモデルを評価して過学習に陥っていないことを確認する必要がある。過学習それ自体を著作権侵害として考えるべきではなく、特定の作品の作風に対して過学習したモデルを意図的に使い、推論=生成結果が特定作品の表現と一致し、享受目的に供する時点ではじめて著作権侵害の問題であると考えるべきである。
【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】 エ 著作権者の利益を不当に害することとなる場合の具体例について(ウ)情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の例について
「インターネット上のウェブサイトで、ユーザーの閲覧に供するため記事等が提供されているのに加え、データベースの著作物から容易に情報解析に活用できる形で整理されたデータを取得できるAPIが有償で提供されている場合において、当該APIを有償で利用することなく、当該ウェブサイトに閲覧用に掲載された記事等のデータから、当該データベースの著作物の創作的表現が認められる一定の情報のまとまりを情報解析目的で複製する行為は、本ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならない場合があり得る」との整理がなされているが、この整理はAPIを利用しない分析をウェブサイト利用規約で禁止している場合に限られると考える。
最後に
生成AIは (1) 大量のデータを学習に供すること (2) 知的生物(人間)ではない主体による創作行為が想定されること などから、既存の著作権法の枠組みには収まりきらない問題であると考える。特に商業活動する創作者や表現者に対する作風模倣は著作権の枠組みでは議論しづらい一方で、文化安全保障、人間の安全保障の観点からは何かしらの規制が検討されるべきである。著作権ではない新たな知的財産権の枠組みの検討が必要であろう。